熊本最後の日

熊本に来て、夢を見つけて、必死だった1年前。
作家になるにはどうしたらいいのかわからずに、気が付いたら、走ってた。
後先考えずに、走るだけ走ってみた。

とりあえず書いてみた。
エッセイをできるだけ書いてみた。

それをプリントアウトして小さな小冊子を作ってみた。
誰かに読んでもらいたくなった。
感想が欲しいと思った。

だから私は走った。


熊本県内をぐるぐる走った。
漫画喫茶、ガソリンスタンド、旅館、道の駅、料亭、フランチャイズ料理店、ファーストフード店、お弁当屋、企業、商社、工場、新聞社、雑誌編集社…。
人が集まるところ、人がゆっくりとできる休憩所などがあるところ、目の付くところ全ての門をくぐった。

「作家を目指してます。本と意見箱を置かせてください。」

今思えば、ネットという意見がすぐにもらえる場所があるのに、どこまでアナログなんだろうと。どこまでバカだったのだろうと思う。でもその頃の私は、周りなんて見ている余裕がなかった。本当に、気持ちだけが私を動かしていた。

もちろん、そんな私をバカにするところは多いにしてあった。
バカにしないところの方が少なかった。

「邪魔だから」
「ゴミになるから」
「管理できないから」
「忙しいから」

ごもっともな意見。
涙をこらえながら有り難く頂戴した。


そんな中、少しずつではあったけれど、着々と協力店舗が出来てきた。
本当に少し。
1/10くらいの確率。

でも私は走り続けた。

もっと上へ。
もっと前へ。









「熊本に至上最大級700坪の敷地を誇るガソリンスタンドが出来るらしい」
夫の仕事柄、そんな噂が流れた。

…工事中にその店舗の前を何度も通り過ぎる。

ふーん。最大級ね。
確かにホントでかいなぁ。こんな所に冊子おいてくれたら最高なのになぁ。


バカな私は、店舗をみるたびに冊子のことばかり。
そして本当にバカな私は、
また迷惑な営業を続ける。




「あの、今、この本を置いていただきたくて営業で回っています。お話だけでも聞いていただけませんか?」

「少々お待ち下さい。店長呼んできます。」




私は気が付いたらオープンから間もなく、その噂のガソリンスタンドにいた。

アルバイトの子だったのか、裏で一生懸命と私のことを伝えている様子。
…私が客ではなく、何かの本の営業の人、ということを伝えている様子だった。


「なんですか?」

店長が裏から出てきた。
私と目が合う。

私は凍りつく。
見ただけでどんな人なのかがわかった。
その、人を見下すような鋭い目。
仕事ができる人。というのが瞬時に伝わる。
極たまにいる。…こんなオーラを放っている人。
当たり前…その若さでこんな大きな店舗を任される人だもの。
只者ではないことくらい私にだって解かる。

また、きっと冷たい言葉で突き放される。
一瞬逃げたくなる。
何度も体験していると何となく「ココはだめかも?」とか人の顔を覗うようになっていた。


「忙しいんだから手短にお願いしますよ。なんですか?本?本なら置きませんよ。管理できないから。」

冷たい言葉。冷たい表情。冷たい視線。
絶望の2文字。


「あの、、、実は私、作家を目指してまして、この本を置いていただけないかと。」

ダメもとで私は、自分の作った冊子を彼に突き出した。

彼は何も言わずにペラペラと捲り、少しだけ読んだ。
面倒くさそうに。つまらなそうに。
2人の間に沈黙の時間が流れる。


「好きなトコに好きなだけ置いて。」

鋭い目をしながら、彼が私をサービスルームに案内する。


私は唖然。

「あの、、、本当にいいんですか?意見箱とかも置かせて頂きたいのですが…」


「よかよ。頑張る人は好きやけん。応援してあげたいけん。その代わり上司に報告できないことだから、上司が見回りにくるときは、オレのデスクに隠すけん、それでもよか?」

熊本ではない、福岡なまりの方言もでて、、、
彼から鋭い目がなくなった。


頑張る人が好きと言った彼は、誰よりも頑張る人だった。
鋭い目で部下を罵倒する彼は、誰よりも優しい人だった。

そんな彼と仲良くなるのに時間なんていらなかった。











明日、私は宮崎に行く。


だから今までお世話になった店舗を少しだけ回った。

すべて回りきれなかったけれど、時間の許す限り車を走らせた。


阿蘇市の旅館…私の冊子を楽しみにしているといってくれていた従業員は今日はいなかった。でも番頭さんは顔見知り。ご無沙汰でしたが転勤になったのでご挨拶に。と言うと、エールをくれた。

天草市の旅館…冊子の売れ行きは物凄く悪いところだったけれど(笑)、老夫婦で営んでいる、本を読む事がすきなオーナーが1年前と変わらずにカウンターに座っていた。挨拶をすると、有名になったらうちの宣伝をしてくれと、笑顔をくれた。

宇土市のお弁当屋さん…よくしてくれた男性の店長さんが、いなかった。店長お願いします。と言うと、見た事のない女の人が出てきた。あの笑顔が見たかった。少し残念。

玉名市のうどん屋さん…ここは思い出の店舗。御飯も無料でご馳走してくれるほどだった。泣きながら食べた日もあった。ここの高校生のアルバイトの女の子は、私のことを憧れだと言ってくれていた。店長も私の夢を誰よりも応援してくれていた。でもその2人はいなかった。店長も仕事をやめ、行方はわからず。高校生の女の子の名前を聞いていなかったのが何よりも悔いが残る。


熊本市のガソリンスタンド…

先日、友人の彼にメールを打った。

「宮崎に転勤になっちゃったんだ。」
「どこに行っても、近いよ。」
「遠いよ。」
「どこに行っても、大丈夫だって。」
「大丈夫じゃないよ。」

「まことちゃんが作家になる日は、どこに行っても近いよ。大丈夫。オレも頑張るから頑張れ。」











熊本、大好きだから。
熊本、忘れないから。






意見箱に入っていた読者からの感想文。

たくさんの勇気をありがとう。


2005.3.25 am2:30


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